ハーブ・生薬解説! 第1回【シナモン(桂皮)】

こんにちは!

サラリーマンをしている薬剤師の温泉卵です。

日々の生活をちょっと彩る情報を発信しておりますので、ぜひ見てください。

第1回目を彩るハーブ・生薬は【シナモン】です!

皆さまも聞いたことやスーパーのスパイスコーナーで目にしたことがあるかもしれません。

そんな身近な香辛料シナモンですが、実は漢方薬の元になる生薬にも用いられる薬としての側面も持っています。

香辛料から医薬品まで、幅広く使われるシナモンの特徴と魅力について紹介していきます。

目次

  • シナモンとは?
  • シナモンの歴史
    • 世界史におけるシナモン
    • 日本史におけるシナモン
  • シナモンの種類と違い
  • セイロンシナモンとは
    • 基原植物
    • 部位
    • 見た目、香り
    • 使用用途
  • カシアシナモン(ケイヒ)とは
    • 基原植物
    • 部位
    • 見た目、香り
    • 使用用途
  • ニッキとは
    • 基原植物
    • 部位
    • 見た目、香り
    • 使用用途
  • シナモンの種類と違いまとめ
  • シナモンの有効成分と効果・効能
  • 深掘り! 有効成分の生合成経路について
  • まとめ

シナモンとは?

シナモンとは、クスノキ科クスノキ属の常緑樹の樹皮を乾燥させたものです。代表的なものにセイロン種とカシア種があります。古くから世界中で医薬品やスパイスなどに用いられてきました。

現在でも、その甘い香りと爽やかな刺激味を持つシナモンは、『スパイスの王様』と称されることもあり、料理や飲み物の香りづけから薬として利用されたりしています。

シナモンの歴史

  • 世界史におけるシナモン

シナモンの歴史は古く、古代エジプトの時代から使用されてきたと言われており、旧約聖書にもシナモンの名が登場しています。また1世紀中頃に記述されたとされる『エリュトラー海案内記』では、輸入品の1つにカシアの名で挙げられており、当時のインド洋交易圏およびローマ帝国ですでに登場していたことが確認されています。

また薬用ハーブとしての歴史も古く、中国最古の薬物書の1つである『神農本草経』に『菌桂』および『牡桂』の名で収載されています。

日本史におけるシナモン

日本では飛鳥~奈良時代にシナモンは渡来し、正倉院種々薬帳に『桂心』の名で記されています。この桂心は、シナモンの一種であるカシアではないかと言われています。薬帳の言葉のとおり、この当時では生薬として貴族たちの間で用いられていたようです。

また江戸時代には西日本の暖地で栽培されるようになります。この時代においても、シナモンはスパイスとしてではなく、主に薬として使用されておりました。

シナモンの種類と違い

長い歴史を持つシナモンですが、複数の呼び名があり、それぞれ異なる基原や特徴を持つことはご存じでしょうか?

次に代表的な呼び名のセイロンシナモン、カシア(ケイヒ)、ニッキの原料や使用部位、また、どのように使用されているかなどについて紹介します。

セイロンシナモンとは

基原植物

セイロンニッケイ(Cinnamomi verum)

原産国:スリランカ(旧称:セイロン)

部位

コルク層を取り除いた内樹皮を重ねて乾燥させたもの

見た目、香り、味

色は薄茶色で、スティック型に丸めたものは薄い皮が重なった見た目をしています。触感は柔らかく、手ですり潰すことができます。

また、香りも後述するカシアと比べて、甘く品のある繊細な香りをしています。味はカシアと比べて辛味は少なく、上品な甘味でありことが特徴です。

使用用途

その独特な香りと味から、洋菓子の香りづけに使用されたりしています。また、コーヒーや紅茶に入れてスパイシーな味を加えることにも利用されています。

カシアシナモン(ケイヒ)とは

基原植物

シナニッケイ(Cinnamomum cassia)

原産国:中国、東南アジア、インドなど

部位

樹皮または周皮の一部を取り除いた樹皮

見た目、香り、味

色は赤茶色で、コルク層を残したまま乾燥させて作られるため、セイロンシナモンと比べて肉厚な質感をしています。

肉厚な見た目と同様、香りや味も強く、セイロンシナモンよりも濃厚な甘さと辛さを有しています。

使用用途

セイロンシナモンと同様、その独特な香りや味を活かすために料理や飲み物に使われることが多いです。特に濃厚な香りを持つカシアシナモンは煮込み料理と相性が良く、カレーなどのスパイシーさを活かしたインド、ネパール料理に向いています。

また、カシアシナモンはケイヒ(桂皮)として、現在でも桂枝茯苓丸や加味逍遥散など、多く漢方薬の原料に用いられています。

ニッキとは

基原植物

ニッケイ(Cinnamomum  sieboldii)(別名:日本桂皮、肉桂)

原産国:中国、インドシナ、日本南部の暖地

部位

根皮

見た目、香り、味

根っこを利用する点がセイロンシナモンやカシアシナモンと大きく異なる点です。香りもシナモンと比べて薄く、すっきりとした香りとなっています。

使用用途

日本では昔から八ツ橋や京飴、ういろう等、様々な和菓子に利用されてきました。また和菓子に限らずカレーやピラフなどの料理とも相性が良いようです。

セイロンシナモン、カシアシナモン(桂皮)、ニッキの違いまとめ

ここまで各シナモンの違いについて述べてきました。以下の表にまとめます。

セイロンシナモンカシアシナモン(桂皮)ニッキ
基原植物セイロンニッケイ
(Cinnamomi verum)
シナニッケイ
Cinnamomum cassia)
ニッケイ
Cinnamomum  sieboldii)
原産国スリランカ
(旧称:セイロン)
中国、東南アジア、インド中国、インドシナ、日本南部の暖地
部位周皮、コルク層を取り除いた樹皮周皮を取り除いた樹皮根皮
見た目(色、質感)赤茶色、薄い皮を重ねた構造焦茶色、コルク層が残っているため肉厚な質感シナモンより少し濃い茶色
香り甘く品のある繊細な香りセイロンシナモンよりも濃厚な甘い香りすっきりとした甘い香り
甘味と辛味セイロンシナモンと比べて辛味が強い爽やかながらもピリッとした辛味
使用用途洋菓子、コーヒーや紅茶の香りづけ肉料理やカレーなどの煮込み料理の味付け、
漢方薬の原料
和菓子の原材料

シナモンの有効成分と効果・効能

精油成分としてケイヒアルデヒド(シンナムアルデヒド)が主に含まれています。またジテルペン類(C20)のシンカシオールAやタンニン類の(-)-エピカテキンシンナムタンニンA2B1C1なども含まれています。

ケイヒアルデヒドはウサギやネズミの実験において解熱作用が認められています。また、解熱作用の他にも腸管運動促進作用、血圧降下作用、カビを抑制する作用も認められています。

タンニン類の(-)-エピカテキンには抗菌、抗炎症作用が知られております。

シンナムタンニンB1には抗アレルギー作用、抗炎症作用、発汗解熱作用、鎮痙作用等があると言われています。またマウス実験で皮膚損傷の治癒を促進する効果があると報告されています。

(左からシンナムアルデヒド、エピカテキン、タンニン)

深掘り! 有効成分の生合成経路について

ここからは深掘りの時間です!

先ほど【シナモンの有効成分と効果・効能】で取り上げた有効成分について、シンナムアルデヒドとエピカテキン2つにピックアップして、どのようにして植物の中で作られるのか解説していきます。

まず初めに「生合成経路」という言葉が何か解説いたします。

生合成経路とは、生体内で酵素によって物質が変換される経路のことを言います。生合成経路にはいくつかの種類があり、異なる成分も元をたどれば同じ生合成経路から作られていることもあります。

  • シンナムアルデヒド:フェニルプロパノイド系、シキミ酸経路(単位構造:C6-C3)

シンナムアルデヒドは、芳香族(C6、図1参照)とプロパン側鎖(C3、図2参照)が組み合わさったC6-C3単位を基本骨格とする構造をしています。

(左から図1、図2)

C6-C3単位構造の材料にシキミ酸があることから、この生合成経路をシキミ酸経路と呼びます。また、C6-C3単位で構成される成分をフェニルプロパノイド系と総称します。

シンナムアルデヒドと同じシキミ酸経路で作られる物質に、ウイキョウ(茴香)の有効成分であるアネトールなどがあります。

  • (-)-エピカテキン:フラバノール・カテキン類(縮合型タンニン)、酢酸-マロン酸+シキミ酸複合経路(単位構造n×C2 + C6-C3)

エピカテキンは、先ほど紹介したシキミ酸経路とC2単位で構成される酢酸-マロン酸経路を組み合わせて生合成されます。

つまり、炭素数が2つのC2がいくつかとC6-C3単位が合体した構造をしています。代表的な構造にフラバノール(図3)を紹介します。

(図3:フラバノール)

フラバノールは、C2が3つとC6-C3が1つ組み合わさった構造をしており、エピカテキン(下図)と見比べると構造に類似点が見られることが分かります。

(エピカテキン)

同じ酢酸-マロン酸+シキミ酸複合経路で生合成される物質として、緑茶に含まれるエピガロカテキンなどがあります。

まとめ

ここまでシナモンについて、歴史から見た目や味・香り、使用用途、効果効能、さらには有効成分の生合成経路まで紹介してきました。

生合成経路に関しては、少し難しい内容だったかもしれませんが、生合成経路の種類自体はあまり多くなく、今後紹介していくハーブや生薬の有効成分の中には、今回紹介した成分と同じ生合成経路によって作られているものがあります。

それらの共通点や相違点などを見ていただけると面白いかと思います。

次回は、ほのかな甘い香りとピリリとした風味が特徴のハーブ、フェンネル(ウイキョウ)について紹介いたします!

ぜひお楽しみに!

参考文献

・https://www.medicalherb.or.jp/archives/267740
・https://yurunatural-life.com/2022/01/31/true-cinnamon-tree-harbs/#index_id7
・https://mimika-life.com/keihi-cinnamon-chigai/#toc4
・https://voxspice.jp/spicestory/3984
・https://kerokero-info.com/2019/03/29/post-48578/#i-2
・https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2016/20160119_4
・http://niu.pharmacog.jp/library.html#:~:text=%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%83%8B%E3%83%B3%E9%A1%9E%E3%81%A7%E3%81%AF%E7%94%98%E3%81%84%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%83%8B%E3%83%B3,%E4%BD%9C%E7%94%A8%E3%80%81%E9%8E%AE%E7%97%99%E4%BD%9C%E7%94%A8%E7%AD%89%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82

コメント